アジマティクス

ここをこうするとおもしろい

「源義経の母はナポレオン」爆発原理の超わかりやすい解説

エイプリルフールです。普段のキャラとは全く違ったおちゃらけ発言を繰り返してフォロワーを減らすツイッタラーを見るのは切ないですね。

嘘をつくのは楽しいですが、その嘘が「矛盾」を引き起こすことのないようお気をつけ下さい。

以前こんな話題が

twitter

「外は雨が降っており、かつ、雨は降っていない」という前提から、「源義経の母親はナポレオンである」という結論を導け。

という問題がわけわからなすぎるみたいな感じで話題になったのは2014年のことです。

はい。えー完全に機を逸してますが、しかし確かにわけわからなすぎて本当に導けるのかどうか気になるところではあります。

矛盾からは何でも導ける

この話のキモは「矛盾からは何でも導ける」というところにあります。論理学には「前提が矛盾していると、そこからどんな荒唐無稽なことでも結論できちゃうよ」という原理があり、「爆発原理(principle of explosion)」と呼ばれています。なんでもかんでも結論できては大変なことなので、数学者や論理学者は必死で矛盾を避けるわけなのです。*1

この例では「外は雨が降っている、かつ、雨が降っていない」というのがつまり「矛盾」なわけです。確かに、そう言われれば矛盾した文章だなーって気がしますよね。

論理学では「矛盾」という言葉は厳密に規定されていて、すなわち「ある主張と、その否定が同時に主張されたとき、その状態を矛盾と呼ぶ」ということになっています。え? どういうこと?

「ある主張」が例えば「外は雨が降っている」だとすると、「その否定」とは「外は雨が降っていない」という主張のことですね。これらを同時に主張すると、「外は雨が降っている、かつ、雨が降っていない」。「は? 矛盾してるじゃん」ってなわけです。単に「まちがっている」というのとは違います。「ある主張」にどんな主張を入れても、全体として間違っていることになる。言うなれば「どうあがいても間違いになる*2、という状態こそが、「矛盾」というものの姿なのです。

試しに何か好きな文章(この場合は、「おはよう」みたいなのではなくて、正しいか正しくないか判定できるような文章。例えば、「りんごは赤い」「サンタクロースは実在する」*3)を「〇〇である、かつ、〇〇でない」の〇〇のところに入れてみてください。その〇〇が正しいか正しくないかによらず、全体としての文は必ず矛盾します。

前提としてこの矛盾が置いてあると、そこからどんな荒唐無稽なことでも結論できちゃう。それは一体どういうことか? というのが今回のお話です。

では実際に、矛盾から任意の結論を導いてみましょう。

「または」という語

カギは2つです。「または」「消去法」です。まずは「または」について。

論理学の世界では、文章「A」が正しいとき、「AまたはB」という文章は全体としては正しい文章ということになります。例を挙げます。

「豚は動物だ。または、メロンパンは動物だ。」という文章は、全体としては正しいのです。「豚かメロンパンかどっちかは動物だ。」と言われたら、「うんまぁ豚は動物だから合ってるよね」となるわけです。*4

「りんごは赤い。または、バナナは水色。」←正しい。だってりんごは赤いから。*5

「私は男だ。または、ラジコンは大根だ。」←正しい。だって私は男だから。

どちらか一方さえ正しければ、もう片方がどんな文章でも全体としては正しい文章になるわけです。

なんでそうなるのか? と言われれば、これは「または」という語の機能がそうだからということになります。つまり、「または」でつながった文章がいくつかあるときに(例:AまたはBまたはC)、 その中に一つでも正しい文章があれば(例:Aは正しい)、全体としては正しい文章である(「AまたはBまたはC」←正しい)ということにする、「または」という語をそういう機能を持つものとして定める。論理学では。ということなのです。

日常会話で「AまたはB」といった場合、AとBに何か関係があることが普通です(「ラーメンかトンカツを食べたい」←両方食べ物、みたいな)。しかし、今見たように論理学における「または」は、全く関係のない文だろうが、どんな文章をくっつけてもOKということになっています。日常的に使う「または」とは別物...とまでは言いませんが、少なくとも全く同じものだとは思わない方が良さそうです。

ということで「または」を使えば何を何にでもくっつけていいことがわかったので、「外は雨が降っている」(正しい)に「源義経の母はナポレオン」(正しいかどうかまだわからない)をくっつけて、

「外は雨が降っている、または、源義経の母はナポレオン」(正しい)

という文を作ることができます。さっきのノリで言うならば、

人「外は雨が降っている、または、源義経の母はナポレオン」
俺「うんまぁ外は雨が降ってるから合ってるよね。」

的な感じです。

あ、外は雨が降っていますか? 現実世界の話です。雨が降っていなければ「外は雨が降っていない」の方に「または」をくっつけましょう。いずれにせよ、正しい方の文章にくっつけなければ(どちらか一方は必ず正しい文なはずです)、最終的に「源義経の〜」を「正しい文」にすることができません。

察しのいい人は後はもうどうやって結論まで導くかわかってしまったかもしれません。

*6

消去法

「または」についてはおわかりいただけたでしょうか。もう一つのカギは「消去法」です。「選言三段論法」という言い方をしたりします。

消去法とはつまり「『AまたはB』と『Bではない』から、『A』と結論できる」ということです。例えば。

「昼飯はラーメン、または、トンカツを食べた。」AまたはB
(どっちだろ...?)
「トンカツではない」Bではない
(あぁ! ってことは...)

「ラーメンを食べた」が正しい、ということになります。単純明快です。「AまたはB」のAとBは入れ替えられるので、AとBを逆にした「『AまたはB』と『Aではない』から、『B』と結論できる」も同じことです。これを先ほどの文章に適用します。「先ほどの文章」とは、

「外は雨が降っている、または、源義経の母はナポレオン」(AまたはB)

のことでした。これに、もうひとつの主張「外は雨が降っていない(Aではない)」をかませると...

源義経の母はナポレオン」

いっちょあがりぃ!!!

まとめ

まとめます。

前提「外は雨が降っており、かつ、雨は降っていない」(真逆のことが同時に主張されている、すなわち矛盾)から、

結論「源義経の母はナポレオン」(導きたいものなのでまだ正しいかどうかはわからない)を導くのが目標です。

手持ちの武器は2つ。「または」と「消去法」でした。

  1. まず、正しい文章「外は雨が降っている」に「または」で「源義経の母はナポレオン」をくっつけて、全体としては正しい文章「外は雨が降っている、または、源義経の母はナポレオン」を作る。
  2. 次に、「消去法」で、この文に「外は雨が降っていない」を適用して、源義経の母はナポレオン」という正しい文を得る。
  3. 完成✌('ω')✌

これでいつでも矛盾から好きな結論を導けるようになりましたね。

「えっ...でも、「源義経の母はナポレオン」って明らかに正しくないじゃん...」と思うかもしれませんが、その文章が現に正しいかどうかに関係なく、こういう手続きを踏むとどんな文章でも正しいということになってしまうよ、というお話だったわけです。

「または」でなんでも繋げられる、というところが、どんな結論でも導ける、ということの直接の原因、という言い方をしてもいいかもしれません。「サンタは実在する」という文章をつないでしまえば、それを結論できます。もちろん「りんごは赤い」のような正しい文でも構いません。なんでも結論できます。なんでも正しくなります。まさに「爆発原理」です。

あるいは、リーマン予想みたいな数学上未解決な主張をつないでしまったら...? 数学者が矛盾を避ける理由がお分かりいただけたでしょうか。*7

「間違った前提からは間違った結論が導かれる」という話ではない

この話でよくある勘違いとして上記のようなものがあります。この話を聞いて「間違った前提からは間違った結論が導かれるってことなんだなぁ〜」と。

違います。確かに前提は前述の通り「どうあがいても間違って」いますが、結論の方は別に正しい文章でも良かったわけです。これも前述の通りです。

別のやり方もある

今回は標準的な論理学の中でのお話でしたが、「標準的な論理学」というからには「非標準的」なやつもあるわけで、非標準的な論理学の中には「矛盾からはなんでも導ける」ということ自体をルールとして採用するやつもあるらしいです。

他にも、「正しい」「正しくない」などという言葉を一切使わずにルールの適用だけで矛盾から任意の結論を導けることを示すやり方もあるようです。詳しくないのでちょっとあれですが。

というわけで

矛盾がいかにヤバいかってことは伝わったでしょうか。なにせ爆発しちゃいますからね。それでは、引き続きエイプリルフールをお楽しみください。

*1:実際には、「矛盾許容論理」みたいなのもあってそこまで避けてない

*2:「恒偽」と言ったりします。

*3:「正しいか正しくないか判断できる(ことが期待されている)文」を「命題」と言いますが、この記事では全て「文章」ないし「文」と置き換えています。

*4:論理学の規定する「または」に則れば、両方でも可

*5:赤くないりんごも水色のバナナもあるかもしれませんが今は論理の話なので全てのりんごは赤く、全てのバナナは水色でないものとします。

*6:一つ大事なこととして、「AかつB」という文章からは「A」「B」という個別の文章をそれぞれ結論することができます。「彼は昼にラーメンとトンカツを食べた」ってずいぶん若い胃袋してんなって感じですが、それが正しいとすると「彼は昼にラーメンを食べた」も「彼は昼にトンカツを食べた」も両方正しい文章として結論できるというわけです。なので、今やったことは「外は雨が降っており、かつ、雨は降っていない」という文章から、「外は雨が降っている」という文を取り出して使ったのだ、ということになります。

*7:そこまで避けてない