この記事は、日曜数学アドベントカレンダー7日目の記事です。記事のテーマも7だしいい感じ。偶然だけど。
......。
............。
えっルービックキューブ難しくない? みんな頭いいね?
ほんとは6面揃ってる画像載せて「ルービックキューブ買ってきたよ〜よっしゃ〜解くぞ〜!」からの「えっ難しくない?」って流れにしたかったんだけど、一度崩してしまったが最後二度と6面揃った画像が手に入らなくなったので残念ながらボツになりました。悲しいね。
大きいルービックキューブ
ときおり「巨大なルービックキューブ」が話題になることがあります。13×13×13とか。こんなやつです。
(画像はtriboxストアさんより引用。以下同じ)
いかついですね。もう少し太刀打ちできそうな範囲では7×7×7とかもあります。
(引用元:http://store.tribox.com/products/detail.php?product_id=2181)
まあ実際に太刀打ちできるかって言われたら3×3×3で詰んでる時点でどだい無理なんだけど。
6×6×6はこんな感じ。
(引用元:http://store.tribox.com/products/detail.php?product_id=1541)
2×2×2っていうのもあって、普通の3分割のやつより簡単かと思いきや、あなどるなかれ。らしいです(やったことはない)。
(引用元:http://store.tribox.com/products/detail.php?product_id=2161)
さて、こうやっていろんなルービックキューブ見てると、あることに気づきます。ルービックキューブってどうも「でかいものほど歪んでる」ようなんです。
以下の販売サイトにはもっといろいろ載ってるんで見てもらうと分かるんですが、確かにある程度大きいキューブは膨らんでいたり、外側の一列だけ太かったりするんですよね。
盛大に歪んでますねえ。
これは一体なぜなんでしょう。いやいや単にデザイン的な理由じゃないの?と思うかもしれませんが、デザイン的な理由だと「歪んでなくて、大きい」ものが一つぐらいあってもよさそうなものなのに、そういうものが一つも存在しないことの説明がつきません。
また、「歪んでいて、小さい」ものも存在しないようです。つまり、「大きいなら必ず歪み、歪んでいるなら必ず大きい」わけです。
お察しのこととは思いますが、実はそこには数学的にちゃんとした理由があったのです。今回はそんなお話。
ルービックキューブの構造
ルービックキューブって「各パーツが中心に向かって腕を伸ばして相互に支え合っている」という構造をしています。だいたいの感じで図にするとこう。
「各パーツが中心に向かって腕を伸ばしているんだよ」という絵を描いたつもりですが絵心に致命的な問題があるためキモくなりました。お詫び申し上げます。だいたいだから。ね。
以下は以前7分割のキューブを分解して中身を見せてもらった時の画像です。パーツを外してみると、確かになんかひょろんとした腕が伸びていることが見て取れるかと思います。
外したところ
パーツ単独で。中心部に向かって腕が伸びている
さて、この前提を踏まえて、以下の画像をご覧ください。
6分割のキューブと7分割のキューブについて、一部を45°回したものを横から見ている感じです。
注目すべきはここです。
この部分を拡大します。
青い四角ひとつ分に注目してもらいたいんですが、7分割の方では、「角のパーツひとつ分が、まるごと外部に露出している」ことがお分かりいただけるかと思います。
これではまずい。ルービックキューブとは、各パーツが腕を伸ばして支えられているものでした。このように露出してしまっては腕を伸ばせません。いや、伸ばせはするのですが、外から見えないように隠したまま伸ばすことはできません。
つまり、理由としてはそういうことだったんです。
「7分割以上のルービックキューブでは、角のパーツが腕を伸ばして支えられない。そのため、辺を膨らませたり、外側だけ太くしたりして、支えるスペースを確保している」
角のパーツが露出してしまうのなら、辺を膨らませたり太くすることにより覆い隠してしまおう、というわけです。
これがタイトルの答えです。6分割まではOKで、7分割になった瞬間ダメになってしまうのは以下の動画でも確認できるかと思います。最上部の青い四角に注目してご覧ください。
7分割以上で露出してしまうことがわかりますね。
ルービックキューブにそんな秘密があったなんて。今回も勉強になったね〜。うんうん。
はい。ここで終わってしまってはただの雑学ブログなのでちゃんとやります。アジマティクスは数学ブログでした。
一体なぜ「7」なのか?「6」まではokだったのになぜ「7」になってはじめて歪んでしまうのか?ということにも実はちゃんと説明がつきます。ここからはそのことを確かめてみましょう。そのためにとっても便利な道具があるんですよね。数学っていうんですけど。
露出する部分の長さ
まずは「キューブを45°回したときに露出する部分の長さ」を求めます。
そのためには「正方形の辺の長さと、対角線の長さとの差」を求めればよさそうですね。これはこの部分の長さ(画像)にあたります。
確かにここは対角線の長さから辺の長さを引いたものになってます。2つ出てきてるので最後にこれを2で割ればいいわけですね。
三平方の定理により、一辺がの正方形の対角線の長さはとなります。
三平方の定理
どんな大きさのルービックキューブで考えても一般性を失わないので今回は一辺を1としておきましょう。
対角線は。一辺は。その差は。
ということでこれを2で割れば、この部分の長さが求まります。式で書くと
となり、数値で言うと0.2071くらいの数となってます。
一個分の対角線の長さ
対して、外側に露出されうる「角のパーツ」一個分のみの対角線の長さ、ここですね、
はどうなっているか考えます。さっきの計算はキューブが何分割なのかは関係ありませんでしたが、こんどは何分割されるかによって変わってきます。分割が多いほど短くなる。
で、考えるルービックキューブをn×n×n、すなわちn分割であるとすると、この部分の長さはと表されます。をで割っているだけですね。対角線はだったので、「対角線のn分割」の長さを考えて、一つ分の長さを求めていることになります。
ここの値が重要なんですが、これはのとき0.2357くらい。で0.2020くらい。10までを表にするとこんな感じです。
45°回したときに露出する部分の長さは0.2071くらいでした。表を見ると7のとき初めてこの値を下回ることがわかります。7分割のキューブになって初めて、「パーツ一個分の対角線の長さ」が「露出する部分の長さ」を下回ってしまうのですね。
その差を求めてみると、ですから、本当にごくごくわずかの差! 小数点第三位って!
これこそ、6では歪まなかったのに7以上では必ず歪んでしまう理由だったのでした。スッキリ!
できれば先にキューブを解いてスッキリしたかったところではある。
理由は構造にあった
大きいキューブが歪んでいる理由がその構造にあると判明したからわかることなんですが、別に「小さいキューブを歪ませる」ことは構造的には何の問題もないんですよね。それに加えて、7分割以上の大きいキューブでも「7分割以上で歪まないような新しい構造」を考えれば歪まないキューブが実現できる可能性はあります。歪んでしまう理由が現行のキューブの構造にあったわけですから。
前者はいくつか例があり、販売もされていたらしいですが、後者についてはまだ実現されていないようです。どんな構造のキューブを作れば歪ませずに大きくできるか、考えてみるのも楽しいかもしれません。
おわりに
ルービックキューブ、言われてみればたしかに歪んでますよね。もし数学がなければただのデザイン的な理由かなんかやろと思って見過ごしていたでしょう。数学ありがたいですね。
とはいえ歪んでいる理由がわかったところでキューブ解くのが簡単になったりするなどということは特にありません。
これもう無理だわ
日曜数学アドベントカレンダー、8日目はToshiki Takahashiさんによる「多元宇宙論と加速膨張説」です。た、多元宇宙論と加速膨張説!?
今回の記事作成にあたり、TokusiNさん(@toku51n)、近藤さん(@shoko3168)のお二方に多大なるご協力をいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。