アジマティクス

ここをこうするとおもしろい

無限べき乗a^a^a^...の収束と発散との境目が気になる

一般に、境目は大事です。どこまでが友人で、どこからが恋人なのか、とか。

この記事は「好きな証明」アドベントカレンダー1日目の記事です。

 

a^{a^{a^{a^{a^{a^{a^{a^{\cdots}}}}}}}}

上記の式のことを考えます。今回はaは正の実数とします。そのaが無限に乗じられているわけです。一見面食らってしまう見た目をしていますが、a,a^a,a^{a^a},\dotsという列の極限として捉えられる、と考えればそこまで異常な概念でもないと思います。あるいは、この式全体を「A」とでも置けば与式はA=a^Aと閉じた見た目にできるので怖くないです。(※極限値があると仮定)

さて、当然のこととして、aに値を入れてみたときにこの式がどう振る舞うのか知りたくなるのが人情です。とりあえず試しにa=1だとしてみましょう。これはすなわち「1^{1^{1^{\dots}}}」のことなわけですが、これはまあ1を何回乗じても1なのでa^{a^{a^{\cdots}}}も1になると予想がつくでしょう。

今度はa=2だとしてみます。2,2^2,2^{2^2},\dotsという数列は、実際に計算すると2,4,16,65536,...となり、明らかに発散(いくらでも大きくなる)しそうな雰囲気をたたえています。

a=1で収束、a=2で発散。はい。こうなってくると当然、その「境目」はどこにあるのか? ということが気になってくるわけですね。境目は大事です。これが今回のテーマです。

収束発散ビジュアライズマシーン

これを考えるのに、とってもいい方法があります。こちらです。

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再帰的な関数の収束・発散の様子が視覚的にわかるやつ〜〜〜!!

仕組み

赤いのがy=a^xのグラフ、青いのはy=xのグラフです。動画で見て分かる通り、aを動かすと赤いグラフはいろいろの形を取ります。

いま、1と2の間にある数の例として1.4をとり、1.4^{1.4^{1.4^{\cdots}}}が収束するのか、発散するのかということを考えます。このマシーンを使えば、数列1.41.4^{1.4}1.4^{1.4^{1.4}}...の値がどうなっていくかを視覚的に見ることができるわけです。

まず、y=1.4^xという式のxに1を入れると、y=1.4となります(あたりまえ)。図で表すとこう。

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次は1.4^{1.4}がほしい。数列の2項目です。そのためには、y=1.4^xのxに1.4を入れればy=1.4^{1.4}が得られるはずですが、このx=1.4を得るために、こういうことをします。

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つまり、いま得たy=1.4を、y=x(青いグラフ)という式に代入してやれば、x=1.4が得られる、というわけです。

そしてまたこのx=1.4y=1.4^xに入れると、1.4^{1.4}が得られます。

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あとはこの繰り返し。得られた1.4^{1.4}xとして、y=1.4^xに入れれば、数列の第3項である1.4^{1.4^{1.4}}が得られます。もう一回やれば1.4^{1.4^{1.4^{1.4}}}です。こうやってジグザグジグザグと繰り返していけば、無限回やった1.4^{1.4^{1.4^{\cdots}}}の値がどうなっているかわかるというわけですね。この「ジグザグ」が、緑色で描かれている部分です。

では早速、y=1.4^xにおけるジグザグを見てみましょう。

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ジグザグが「一点に収束している」感じが見て取れるでしょうか。y=a^xのグラフとy=xのグラフとが交わっているa^{a^{a^{\cdots}}}は収束しそうだ、ということがわかります。実際、これは1.887くらいの値に収束します。

それに対して、y=1.5^xの場合だとどうなるか見てみます。

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さっきまでの画像とは縮尺を変えています。見るからに「発散している」感じがしますね。ジグザグをどんどん続けていくと値がいくらでも大きくなりそうだというふうに見えます。y=a^xのグラフとy=xのグラフとが交わっていないa^{a^{a^{\cdots}}}は発散する、といってよさそうです。

1.4で収束、1.5で発散。さっきよりだいぶ範囲が狭まりました。そして、グラフを使うことによってその「境目」を求める方法もわかりました。つまり、y=a^xのグラフとy=xのグラフとが「一点だけで交わる(=接する)」ような「a」を求めれば、それが収束と発散との境目になっているだろうということです。 

一点だけで接するようなaというのは、少しでもaがズレればy=a^xy=xは交わらなくなってしまう、という値です。「少しでもこの値を過ぎれば発散する」ということで、まさにここが収束と発散との境目というわけです。

aを求める

このグラフを使って目分量で2つのグラフが接するときのaの値を見てみたところ、だいたい1.4447くらいであることがわかりました。この値は何でしょうか?

こういうときに便利な検索エンジンがあって、Wolfram|Alphaっていうんですけど、ここの検索窓にこの値を突っ込んでみると「その値ってもしかしてこれのことじゃないの?」っつっていくつかのもの(※閉形式)をサジェストしてくれます。

1.4447を入れてみたところ、第一にサジェストされたのは「e^{\frac{1}{e}}=1.4446678...」でした。ee分の1乗。なにこれ! またeだ! eいろんなところに出てくる! ふしぎ!

もちろん、ただの目分量でしかないので、2番目にサジェストされている\frac{1}{\ln\left(2\right)}=1.4426950...の可能性も捨てきれません。目分量の限界です。本当に境目がe^{\frac{1}{e}}なのかどうか知るには、実際に計算で求めてみるしかないですね。

論理の流れ

これを計算で求めるのは結構骨です。でも大丈夫。計算が苦手という方でも、aを求めるためにどうすればよいか、その論理の流れだけでも理解しておきましょう。それさえ理解しておけば、ほぼほぼゴールです。

求めるaとはどういう値でしょうか。それは収束と発散との境目のaです。つまり、このaによって定められるy=a^xのグラフはy=xに接しているわけですから、y=xという直線そのものを接線としてもつようなy=a^xを定めるa、ということができるでしょう。

ということは、aは以下のような手順を踏めば求められると思われます。

 ①xごとに、y=a^x上の点における接線の傾きを求める。

 ②その中でも、接線の傾きが1であるようなxを求める。

 ③傾きが1であるようなy=a^xの接線が、y=xと一致するときのaを求める。

こうすることでaがただ一つに決まるはずです。なんだかよくわかりませんか? 説明します。

①はこういうことです。

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一口に「接線」といっても、グラフ上のどこの点を考えるかによってその傾きは変わります。まずは点ごとに(xごとに)接線の傾きを求めます。

②はこういうことです。

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グラフ上の点によって変化する接線の中には、どこかに傾きが1であるようなものがあるはずです。それを求めます。

③はこういうことです。

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aによって変化する「傾きが1であるような接線」の中には、どこかにy=xと一致するものがあるはずです。それを求めます。

こうすることで、y=a^xy=xとが一点で接するようなa、すなわち収束と発散の境目たる値aが求まるというわけです。やっていきましょう。

やっていく

①の「xごとにy=a^x上の点における接線の傾きを求める」とは、まさに微分そのものです。微分とは簡単に言って、グラフの傾きの変化を求める操作のことです。うってつけですね。

この式はもうそういうものだと認めてほしいのですが、y=a^xを微分するとy'=a^x\log_eaとなります(この先、対数の底は明示して書くことにします)。

これが、y=a^xのグラフの「傾きの変化を表す式」であり、xをいろいろに変化させるとxごとにグラフの傾きが出てきます。

②は「接線の傾きが1であるようなxを求める」でした。これを式で表現すると「a^x\log_ea=1を満たすようなxを求める」ことになります。

式で表現できれば、もう勝ったようなもんです。式変形してxを求めましょう。

 a^x\log_ea=1

aは正なので両辺を\log_eaで割ると、\frac{1}{\log_ab}=\log_baより、

 a^x=\log_ae

両辺aで対数をとって、

 x=\log_a\log_ae

はい。xが求まりました。logが2重になってますね。ログエーログエーイー。

y=a^xのグラフとy=xのグラフとが接する点」とは、この二つの式が同時に成り立っている点です。なので、この二つの式からx=a^xという新たな式を導くことができます。

さらに、xの値はさっきの計算で\log_a\log_aeであるとわかっているので、この新たな式にこれを代入します。

 \log_a\log_ae=a^{\log_a\log_ae}

a^{\log_ab}=bより右辺が簡単になって、

 \log_a\log_ae=\log_ae

(ん……?)両辺をaに乗じて、

 \log_ae=e

(これは……?)もう一度両辺をaに乗じて、

 e=a^e

(きたきたきたきた!)両辺を\frac{1}{e}乗して、

 e^{\frac{1}{e}}=a

きたきたきたきた!!! 出た! 出ましたよ!! やっぱり「a=e^{\frac{1}{e}}」だったんですね!

どこから出てきたか分からなかったe^{\frac{1}{e}}という値が、いくつかの式変形のステップを踏んだだけで出てきてくれました。

私が好きなタイプの証明にもいろいろありますが、こういう「手を動かしてると自動的に一つの値が出てくる」というタイプはやってて楽しいので好きです。ちょっと時間空いたときとかたまにやってます。

まとめ&発展

a=1.4で収束、a=1.5で発散したa^{a^{a^{\cdots}}}。その収束と発散との境目はa=e^{\frac{1}{e}}にあることがわかりました。

では実際にこのe^{\frac{1}{e}}を無限にべき乗していったとき、つまり

\left(e^{\frac{1}{e}}\right)^{\left(e^{\frac{1}{e}}\right)^{\left(e^{\frac{1}{e}}\right)^{\left(e^{\frac{1}{e}}\right)^{\left(e^{\frac{1}{e}}\right)^{\left(e^{\frac{1}{e}}\right)^{...}}}}}}

の値はどうなっているかといえば、これがなんとeに収束するんですね。

それはx=\left(e^{\frac{1}{e}}\right)^xを解いてもわかることなのですが、eなんて大して大きい値でもないのに発散との境目にいる感じがなんかエモいです。

さて、a^{a^{a^{\cdots}}}の収束と発散の境目がa=e^{\frac{1}{e}}である証明をやってきましたが、ここまでで言えたのは「e^{\frac{1}{e}}より大きい部分では、発散する」ということだけで、例えばaが1より小さい範囲でこの式がどういう振る舞いをするかは、まだわかってないわけです。こちらの証明もなかなか手応えのある感じですので、腕に覚えのある人はやってみるといいと思います。

こちらのブログ「ねくノート」さんに、この辺の話をさらに発展させたような話題があります。

neqmath.blogspot.com

この記事、すごいです。一見の価値ありです。

さて、今回の記事は「手を動かしてたら自動的に値が出てきて気持ちいい証明」のご紹介でした。電車の待ち時間とか、ちょっと暇になったときなどに是非試してみてください。

それでは今回はこのへんで!