数学で遊んでると時折やばい式に出くわして、自分で見出しておきながら困惑、あるいは感動してしまうことがあります。今回はそんなお話。
実数の展開
実数には「展開」という概念があります。大雑把に言って、実数の「表示方法」みたいなものです。
円周率πとか、とか、なにか実数が一つあって、「①その実数の整数部分を取り去って」「②10倍して」「③またその整数部分を取り去って」……とずっと繰り返していき、取り去った整数を並べると、その数の「十進小数展開」が現れます。
なんのことはない、簡単な話です。例として円周率πで言うなら、
「整数部分(つまり3)を取り去る」→残るのは0.141592...
「10倍する」→1.41592...
「整数部分(つまり1)を取り去る」→0.41592...
「10倍する」→4.1592...
「整数部分(つまり4)を取り去る」→0.1592...
これを繰り返し、取り去った数を並べるとπの十進小数展開「3.141592...」が現れるよね、というだけのことを言っています。
ギュッと押し出してスパッと切る。トコロテンみたいな感じです。トコロテンを並べると実数ができます(意味不明)
さて、この操作における「10倍して」の部分はいろいろと変える余地があります。例えばこれを「逆数にして」にしても、似たような操作ができます。
ある実数から整数部分を取り去ると、0~1間実数(れいてんナントカ、みたいな数)になります。そして0~1間実数は逆数にすると必ず1以上の数になります。そうすると必然的に「整数部分」が出現して、「整数部分を取り去る」という操作ができるようになるわけです。
この「整数部分を取り去る」「逆数にする」「以下、できなくなるまで繰り返し」という操作を「連分数展開」といい、当然十進小数展開のときとはまた別の数列が出てくることになります。
一つの実数に対して、いくつも「展開」の方法がありえるというわけです。
連分数展開
この連分数展開の例をで見てみましょう。なので、最初に取り去るべき整数部分は「4」とわかります。
「整数部分を取り去る」→
「逆数にする」→
「整数部分を取り去る」→
「(バババッと計算を進めた後、)逆数にする」→
「整数部分を取り去る」→
...
あとはこれを繰り返します。ここまでで、「4,2,1」という整数の列が出てきました。このままこの操作を続けると、「4,2,1,3,1,2,8...」という無限に続く数列が出てきます。この数列こそが、「の連分数展開」です。
一連の操作を一つの式にまとめて書くと以下のようになります。
禍々しくてとても目に良いですねえ。
正直、連分数展開は結構有名な概念なので知ってる人も多いかもなんですが、知らない人が見たらこれだけでもかなり「やばい式」に映るのではないかと思います。
これらの「十進小数展開」と「連分数展開」が、実数の展開で特によく使われる二つです。
新しい展開
さて。本題はここからです。
東京で数学好きが集まるコミュニティを運営しているのですが、そこによく来てくれていつも一緒に数学をしている友人の一人(@nosiika)が、Twitterで寄せられたアイデアであるとして、こんな話題を持ってきました。
実数の展開、「10倍にする」とか「逆数にする」だけじゃなくてほかの操作でもいいんじゃない? たとえば「二乗して逆数」とか。
元ツイートはこちら。
思い付きを書いてみますと:0<x<1の実数に対して,([]はガウス記号とします)
— 濱中裕明 (@Ototo_) January 23, 2019
x→a=[10x],x'=10x-a→b=[10x'], x''=10x'-b→・・・小数展開
x→a=[1/x],x'=1/x-a→b=[1/x'], x''=1/x'-b→・・・連分数展開
x→a=[1/x^2],x'=1/x^2-a→b=[1/x'^2], x''=1/x'^2-b→・・・?
それを聞いた私はこう思ったわけです。うわ。なにそれ。やるしかねえ。
やりました。出てきました。やばい式が。こちらです。
やっっっ……べぇ〜〜〜〜……。まじかよ……。ルート3……。お前……。
手を広げすぎてもどっ散らかってしまうので、とりあえず「ルート自然数」の形の実数で「二乗して逆数」の展開を調べていました。そんな中、の展開をしてみていたら、これにたどり着いてしまったわけです。発見したときは場が騒然としたものです。
しかし、にわかにはちょっと信じがたい式でもあります。ということで実際にの「二乗して逆数」展開をやって確かめてみましょう。
……毎回「二乗して逆数」展開、などというのは煩わしいので、とりあえずこの展開法を「平方連分数展開」とでも名付けておきましょう。
まず、の整数部分は1です。というわけで、から1を引いて、二乗して逆数にします。
これは式変形をしていくととなり、これの整数部分は再び1です。というわけで、から1を引きます。
これを二乗するとになり、さらに逆数にするとです。これの整数部分はまた1です。
から1を引くと、になります。二乗するとで、逆数にすると9。整数になりました。
これ以上操作を続けようとすると、9から整数部分の9を引いて0。二乗して0。0の逆数はない(未定義)のため、これ以上展開を続けることができません。整数になった時点で終了ということにしておきましょう。
最終的に「1,1,1,9」という数列が出てきました。この一連の操作を一つの式にまとめると、上記の式のようになる、というわけだったんです。
逆からもやってみましょう。つまり、上記のやばい式から式変形でを導きます。
やばい式
一番内側のルートを外した
分母を計算
逆数にする
分母の有理化
分母を計算
逆数にする
二重根号を外すため、の形にする
二重根号を外す
やばい
やばい。
ほかにないの?
見たことないタイプのやばい式、いいですね。たまに予期せずこういうのがまろびでてきてくれるあたりが、数学やってる醍醐味のひとつだと思います。
さて、この式が手に入ったところで気になるのは「このような表示をもつのはだけなのか」ってあたりだと思うんですが、ではためしにで平方連分数展開をやってみてください。死にます。すなわち、全然きれいな値になってくれないんです。途中でみたいな数が出てきてどんどん値が大きくなっていって死にます。
つまり、すっきりと最後整数になって終了してくれるというのはめちゃくちゃ特殊な存在なんですよ。
「ルート自然数」という形のものを3000くらいまでは調べてみたんですが、以外に平方連分数展開が有限で終了してくれるのは「(つまり)」しかありませんでした。それくらい貴重な存在なんですね。
概観したところπも、eも、自然数の3乗根や4乗根(7乗根くらいまで見てみました)も、有限で終了してくれるものはありませんでした。見た限りでは。
数値実験でやってみただけなので、それ以外に存在しないならしない、するならどういう値かを明らかにするのは、今後の重要な課題と言えるでしょう。
以下にの展開式を書いておきます。ぜひみなさんの手でも、上でやったような計算をして確かめてみると楽しいと思います。途中めっちゃ気持ちいい箇所があって悶絶しました。
6400って。おま。
おわりに
この新たな「平方連分数展開」、まだまだいろいろ調べがいがあって楽しそうです。それこそと以外にはないのかとか、「二乗」じゃなく三乗とか、logとか他のいろいろな関数でできないかなとか。夢が広がります。先行研究などの情報がありましたらぜひお知らせください。
最後に、この平方連分数展開を無限に続けたものがどうなっているかを紹介して終わりにしましょう。ではまた!
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最後の無限平方連分数展開はパドヴァン数列と深い関わりがあります。